9年前、私は家を出ました。
浪費、暴言、暴力――。
夫との生活は、もはや「家族」ではなく、私と子どもたちをすり減らす場所になっていました。
夜逃げならぬ、昼逃げ。
夫が会社に行っている昼間に、必要な荷物をまとめて家を出ました。
当時はただ、「逃げなきゃ」としか思えなかった。
でも今思えば、それが私の人生を取り戻す第一歩でした。
父がくれた一冊の本
行き場のない思いを抱えていた私に、思いがけず一冊の本が届きました。
それが 『嫌われる勇気』 でした。
ある日、父が「これを読んでみなさい」と手渡してくれたんです。
ベストセラーになっていた本で、すぐに興味が湧きました。
そして、読み進めるうちに「これは自分の話では?」と感じ始めました。
「他者の課題に踏み込まない。自分の課題に他人を踏み込ませない。」
私はずっと、“夫の機嫌を取ること”を自分の課題だと勘違いしていたんです。
今は父ともいろいろありますが、
この本をくれたことだけは、本当に感謝しています。
「課題の分離」と心が軽くなった瞬間
本を読みながら、頭の中が静かになっていくのを感じました。
「浪費も、暴言も、暴力も、私のせいじゃなかったんだ」と気づいたとき、
長年背負っていた重い荷物がすっと消えたような気がしました。
それまでは、“私が我慢すれば丸く収まる”と思い込んでいたんです。
でもそれは、相手の課題を自分が抱えていただけでした。
アドラーの言葉が、「あなたはあなたの人生を生きていい」
と、背中を押してくれたように感じました。
嫌われる勇気=自分を生きる勇気
“嫌われる勇気”というタイトルの意味が、ようやく理解できました。
誰かにどう思われるかよりも、自分がどう生きたいか。
それを選ぶ勇気のことなんだと。
私は妻でも母でもなく、ひとりの「人間」として生き直す決意をしました。
不安もありました。
でも、あの日玄関のドアを閉めたとき、心のどこかで「やっと息ができる」と感じたのを覚えています。
9年経った今、思うこと
別居してからの9年間、静かで穏やかな毎日を過ごしています。
特別なことがなくてもいい。
心が波立たない日々こそが、いちばんの幸せだと今は思います。
子どもたちもそれぞれ社会人になり、自分の人生をしっかり歩いています。
そして、過去を振り返ってももう自分を責めません。
あの頃の私は、「信じたい人を信じた」だけ。
それは、弱さではなく、優しさの証だったと今なら思えます。
アドラー心理学が教えてくれたこと
『嫌われる勇気』 は、ただの自己啓発本ではありませんでした。
“人はどう生きるか”を静かに問う、哲学書でした。
私はこの本を通して、
「他人を変えるより、自分を大切にする方がずっと建設的」
ということを学びました。
誰かに嫌われても、自分を裏切らずに生きること。
それが、人生を取り戻す第一歩です。
あの日、私は“逃げた”のではなく、“生まれ変わった”のだと思います。
『嫌われる勇気』が、私に“生きる勇気”をくれました。
